「正しさ」へのこだわりが、分断を深めていないか?
いま、SNSをはじめとした公共空間では、少しの意見の違いが対立を呼び、人は簡単には「考えを変えられない」空気に包まれています。「以前と言っていることが違う」と指摘されることは、非難の対象でさえある。
そんな「訂正することが許されない」時代に、東浩紀氏はあえて「訂正する力」の重要性を説いている。
本書が描く「訂正する力」とは、「批判を受けとめる力」「世界を読み替える力」「現実を直視する力」である。読者は読み進めるうちに、この「力」がどのようなものであり、なぜ今それが必要なのかを、自然と理解していくことになる。
本書のポイント
1. 人間は弱く、分かり合えない存在である
人は対立し、誤解し、分かり合えない。どれだけ多くの人が賛同していても、反対する者は現れる。そして過激な行為──たとえばテロさえも──完全に消えることはない。
この現実を認識することが、「訂正する力」の出発点である。人間とはそういう存在であるという前提を受け入れる謙虚さが必要だと、著者は語る。
2. 変化を受け入れる柔軟性
不合理なクレーマーは排除すべきという意見もありますが、時にその「クレーム」が社会のルールを見直す契機となることもあります。
**時代が変われば、正しさも変わる。**それに応じて自分の考えもアップデートしていく。そうした柔軟性こそが「訂正する力」なのです。
3. 訂正するという実践
「訂正する力」は一方的なものではない。自分が訂正されることもあれば、他者の訂正を受け入れる場面もある。その相互性が重要である。
意見に耳を傾け、必要に応じて自分の立場を修正し、ときには社会のルールそのものにも目を向ける。「よく考える」人であり続けることが、その実践への第一歩である。
結びにかえて:希望を持って訂正し続ける
たとえ冷静な議論で分かり合うことが幻想であっても、議論をやめるべきではない。むしろ「分かり合えないかもしれない」とわかっていながら、それでも対話し続ける姿勢が、現代に求められている。
強いリーダーシップや巧みなコミュニケーション能力も重要かもしれない。でも、何よりも大切なのは「変わることを恐れない心」である。
**自分も、相手も、社会も、変わり得る。**その前提に立って未来を見つめるためにこそ、「訂正する力」は必要なのだと強く感じた。