教育

魔窟  -知られざる「日大帝国」興亡の歴史-          森 功:著  東洋経済新報社刊

1. はじめに

日本を代表する私学の一つである日大。その不祥事(アメフト事件や薬物事件)はたびたびニュースで報じられてきた。しかし、これらは単なる偶発的な出来事ではなく、大学の歴史や組織の問題と深く結びついているのではないか。そう考え、本書を手に取った。
本書は、日本最大の私学である日大が、どのように発展し、どのような問題を抱え、変遷してきたのかを、豊富な取材と資料をもとに明らかにしている。

2. 本書の概要

  • 日大の発展と問題
     日大は当初、法律学校として開学したが、戦後の古田重二良の時代に大規模な私学へと発展する道を歩む。そして田中英壽の体制下で、巨大な大学としての地位を確立する一方、さまざまな問題も抱えるようになった。改革を期待された林真理子体制の下でも、薬物事件が発生するなど、根本的な組織の課題が浮き彫りとなっている。本書を読むことで、社会背景とともに日大の発展の過程を理解できる。
  • 大学と暴力団の関係
     日米安保の時代、学生運動が激化し、大学側は対応として暴力団の力を頼ることがあったという。衝撃的な事実ではあるが、当時の芸能界や民間企業においても、暴力団との関係が存在していた時代背景がある。こうした歴史を振り返ることで、大学組織が抱える構造的な問題の一端が見えてくる。
  • 近年の薬物事件とガバナンスの欠如
     近年の日大の不祥事は、単なる学生個人の問題ではなく、大学のガバナンス不足が原因であると考えられる。大学は教育・研究機関であると同時に、経営と教学の両輪で成り立つ組織でもある。その最高意思決定機関である理事会が適切に機能していなければ、不祥事の発生を防ぐことも、適切な対応をすることも難しくなる。
     特に、大規模校であれ中・小規模校であれ、理事長及び理事会の統治能力が問われることは変わらない。強力なリーダーシップがあることと、健全なガバナンスが機能することは別の問題であり、そこが日大の課題の一つとして浮かび上がる。

3. 考察

 本書を通して、日大の歴史を振り返ることで、日本の大学経営における課題が見えてくる。

  • 組織の歴史と現在の問題の関連性
     日大は、その時代ごとの社会背景や価値観に応じた組織運営を行ってきたが、過去の問題を適切に清算せず放置したことが、後の組織運営に悪影響を与えている。本書の優れている点は、過去の出来事を単なる歴史として扱うのではなく、現在の問題と関連づけている点にある。
  • 大学経営の視点から
     欧米では、日本よりも業界を超えて経営のプロフェッショナルが大学のトップに就任する傾向がある。かつて日産にカルロス・ゴーンが就任したように、組織が変革を求める際には、外部から経営の専門家を招くことが有効な手段となる。大学経営においても、専門家による統治が必要なのではないかと考えさせられる。
  • 大学は教育機関であり、同時に巨大な事業体である
     大学は研究・教育の場であるべきだが、同時に大規模な事業体でもある。この二面性が、大学経営の難しさを際立たせている。本書を通じて、教育機関としての理想と、組織経営の現実の狭間で揺れる大学の姿が浮かび上がってきた。

4. 結び

 本書は、日大という一つの大学の歴史を掘り下げながら、日本の大学経営の課題を鋭く浮き彫りにしている。ガバナンスの強化は、日大だけでなく、他の大学にも共通する問題である。
 問題が発生した際に、組織がどれだけ向き合い、徹底した調査を行い、改革を実行できるかは、単なる一時的な対策ではなく、組織の存続そのものを左右する重要な要素である。本書は単なるゴシップではなく、大学経営や組織論に関心のある人にとっても必読の一冊である。

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