医学

『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』池谷裕二:著 講談社刊

【概要】

本書は、高校生への3日間の講義をもとに構成されており、最新の脳科学の知見を交えながら「脳とは何か?」を探求していく。

著者は、脳の機能を「F1レーシングカーでコンビニに行くようなもの」と例え、人間の脳が持つ圧倒的な可能性と、それに対する私たちの理解の限界について問いかける。さらに、人工知能(AI)との共存によって、この限界を突破できるのか、それとも新たな問題が生じるのかというテーマにも踏み込んでいる。

加えて、「なぜ生命は存在するのか?」「生きる意味とは?」といった哲学的な問いにも挑み、科学のあるべき姿勢とともに、著者自身の考えを展開していく。本書は、脳科学を通じて世界の捉え方を一変させるほどの刺激に満ちた内容となっている。

【心に残った部分】

特に印象的だったのは、「宇宙」と「脳」の関係性に関する考察だ。

🔵 宇宙シミュレーションの可能性
もし科学が進歩し、宇宙全体をシミュレーションできるようになれば、ビッグバンの瞬間から地球の誕生、生命の進化、人類の出現までを再現し、観察できるようになるかもしれない。この視点は、私たちが現在生きている「この宇宙」も、未来の人類や未知の知的生命体によるシミュレーションなのではないか、という大胆な仮説へとつながっていく。

🔵 古典文学に見る「私」という存在の揺らぎ
著者は、「私」という存在の不確かさを示すために、古典文学の表現を引用している。

  • 古今和歌集:「世の中は夢か現かうつつとも夢とも知らずありてなければ」
    (この世界が夢なのか現実なのか、分からぬままにある)
  • 宮沢賢治:「私といふ現象は、仮想された有機交流電燈のひとつの青い照明です」
    (私とは、透明な幽霊の集合体に過ぎない)

これらの表現は、私たちが普段「現実」だと信じている世界が、実は脳が作り出した仮想空間に過ぎないのではないか、という本書の核心的なテーマとも響き合っている。

【結び】

著者の脳科学者としての探究心と倫理観は、本書の随所に表れている。そして、脳の研究を深めていくうちに、話は宇宙の目的や生命の意味といった壮大なテーマへと広がっていく。科学と哲学を交差させながら、私たちの「生きる意味」について考えさせられる、非常に示唆に富んだ一冊だ。

本書は高校生向けの講義をもとにしているが、大人が読んでも十分に刺激的であり、知的好奇心を大いに揺さぶられる内容となっている。科学と哲学が交わるこの思考の旅を、多くの人に体験してもらいたい。

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