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【概要】
本書は、日本を代表する広告代理店・電通に勤めた著者の回想録であり、当時の日々を赤裸々に綴った“日記”である。
電通といえば、華やかで高収入、一流企業のイメージがあるが、本書ではその内実──過重労働、パワハラ、異常な接待文化など、輝かしい表舞台の裏に潜む過酷な現実が描かれる。
著者は仕事で成果を上げながらも、仕事一筋の生活が夫婦関係を破綻させ、健康を害し、最終的には退職へと追い込まれる。
昭和・平成の働き方と価値観の変遷を振り返りながら、現代における労働環境の課題を考えさせられる一冊である。
【印象に残ったポイント】
① 過酷な働き方と接待文化
始業・終業時間は形骸化し、仕事は24時間体制という感じ。とくに接待文化は凄まじく、クライアント至上主義のもと、料亭やゴルフ、夜の接待が常態化していた。
第三者的には「笑い、または呆れ返る」エピソードの連続だが、当事者にとっては過酷な現実。社員は理不尽な環境に耐えながら、ひたすら成果を求めらる。
また、上司・先輩からの指導は厳しく、今で言うパワハラも当たり前だった。これは電通に限らず、昭和から平成初期にかけて多くの企業で見られた組織風土だろう。
② 昭和の家庭と夫婦のすれ違い
本書は仕事の話が中心だが、随所に家庭の話も登場する。
著者の家庭は、典型的な昭和の「夫が仕事、妻が家庭」のスタイル。
夫は仕事に全精力を注ぎ、妻は家事と育児を担う──そうした役割分担のなかで、夫婦の距離は徐々に広がり、最終的に破綻へと向かう。
「仕事に人生を捧げる」ことが美徳とされた時代の代償が、ここに描かれている。
【感想】
広告代理店といえば、クリエイティブな仕事が華やかに見えがちだが、本書を読むと、それを支える現場の壮絶さが伝わってくる。
電通に限らず、昭和・平成の日本企業はブラックな働き方が当たり前だった。だが、時代は変わり、いまや過重労働やパワハラは許されなくなっている。
しかし、それだけで“良い組織”ができるわけではない。単にハラスメントをなくすだけでなく、社員のモチベーションを維持しながら成果を上げるにはどうすればよいのか──この問いは、これからも続いていくだろう。
本書は、電通という超一流企業の知られざる内幕を描くとともに、「仕事と人生」「組織と個人」の関係を考えさせられる一冊である。
著者は激務のなかで成果を出し、プライドを持って仕事に取り組んでいた。その姿勢には学ぶべき点も多い。
一方で、仕事にすべてを捧げた結果、家庭も健康も失ってしまう──そんな生き方は、いまの時代には合わないだろう。
これからの社会では、いかにバランスを取りながら、充実したキャリアを築いていくかが問われていくのではないか。
「働くこと」と「生きること」を改めて考えさせる、示唆に富んだ一冊である。