Contents
「東京を、誰一人取り残さない都市にする。」
一見、壮大すぎるビジョンを、真っ向から語り、実現へとつなげようとする挑戦者。
AIエンジニア、起業家、SF作家という多彩な顔を持つ安野貴博氏が、その具体策を語った一冊が『1%の革命』である。
1%の意味――小さな革命が未来を変える
2020年の東京都知事選挙において、得票率「1%」を獲得した著者。その数字は一見、敗北に映るかもしれない。しかし本書を読み進めると、この「1%」には希望が詰まっていることに気づかされる。都の年間予算8.5兆円のわずか1%(約500億円)でも、未来を変える波は起こせるのだという、冷静かつ情熱的なロジックに、強く共感した。
新しいことに挑戦する人々を応援する姿勢、そしてその「1%」の積み重ねこそが変革を起こすという信念は、どこか現代の閉塞感に風穴をあけるような爽やかさがある。
テクノロジーと行政の融合――未来を描く力
著者は、AIの可能性を単なる未来技術の夢物語として語るのではない。現役世代への経済支援、子育て支援、教育環境の充実、高齢世代への安心な医療・防災――それらの具体策にAIをどう活用するのか、丁寧に描いている。
印象的だったのは、「教育の本質は、その子が学びにアクセスできているか?」という問いかけ。学力偏重ではなく、学びの環境や方法の柔軟性を重視し、「誰も取り残さない教育」を目指す姿勢が、テクノロジーの使い方にも現れている。
また、行政手続きにおいても「行かせない・欠かせない・待たせない・迷わせない」といった市民目線のDX(デジタルトランスフォーメーション)への言及があり、現実的な課題解決への視点も見逃せない。
多様性とデジタル民主主義――新しい政治のかたち
特に印象的なのは、第6章「多元的な社会を目指す──デジタル民主主義の思想と挑戦」だ。
高速で民意を反映する仕組み、「ブロードリスニング」などの言葉には、現代の政治が抱える課題に真正面から取り組む姿勢がにじんでいる。
都知事選の選挙戦を「即席のチーム」で挑んだ経験も綴られており、そのなかで掲げられた「全員の合意形成を目指さない」「リスペクトを前提とする」などの指針は、スピードと信頼の両立を目指す新しい民主主義のあり方を感じさせた。
日本という課題大国に必要なのは、「諦めない姿勢」
東京が抱える問題は複雑だ。政治も、行政も、課題は山積している。
それでも「悲観的になるのではなく、前向きに、1%の改善を丁寧に積み重ねていこう」とする著者の姿勢は、読む者に力を与えてくれる。
現代は、政治や行政に対する関心が希薄になりがちだ。だが本書は、行政に関心を持つことが、私たち市民の生活そのものを左右する大切な行為であることを思い出させてくれる。
おわりに――応援したくなる著者の姿勢
安野氏は、決して夢見がちな理想論だけを語る人ではない。
多くの政策に、実現のための具体的な課題と解決策が添えられ、リアルな現実と向き合いながら、ビジョンを描いている。
「今の日本、東京に不安を感じる」「でも諦めたくはない」
そんな方にこそ、ぜひ手に取ってほしい一冊である。
老いも若きも、政治に関心を。未来は、私たち一人ひとりの関心から始まる。