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歪んだ幸せを求める人たち-ケーキの切れない非行少年たち 3(宮口 幸治/著 新潮新書刊)を読んで

1. この本を選んだ理由

歳を重ねたことがその原因かは不明なのだが、他人の言動が以前より気になるようになってきた。ふとした場面で感じる苛立ちや不満が、実は自分自身の衰えや心の在り方に起因しているのではないか――そう思うことが増えた。本書『歪んだ幸せを求める人たち』は、「ケーキの切れない非行少年たち」シリーズ第3作。社会の“歪み”に向き合いながら、自分自身の心の歪みにも目を向けさせられる一冊であった。

2. 本書の概要と構成

本書は4章構成で、「極端な歪み」から「身近な歪み」へと視点を移しながら、最終的にはその壁をどう乗り越えるかが語られる。中心には「三つの人間的欲求」がある。すなわち、「幸せになりたい」「自分を見てほしい」「人の役に立ちたい」という思いだ。この普遍的な願いが、環境や認知の歪みによって複雑にねじれたとき、人は不適応を起こす。その根本に迫るのが本書のテーマである。

3. 印象に残った考え方やキーワード

「相手のストーリーを知る」ことの大切さ:表面的な行動ではなく、背景にある事情や想いを知ろうとすることで、人への理解と寛容が深まる。<br> ・「問題解決はトレーニングである」:失敗を繰り返すのは、技術や判断力の不足ゆえ。考え方のクセや反応の仕方は、鍛えることで変えていける。<br> ・「幸せは目標ではなく結果」:これはフランクルの思想に通じる。人は意味を見出し、与えることでしか、本当の幸福にたどり着けない。

4. 自分自身への気づき

読後、自分の心にも“歪み”があることに気づかされた。例えば、交通時の苛立ちは、若い頃なら回避できた状況への反応の遅れ、自分の衰えへの不安から来ている。そこに気づければ、怒りではなく謙虚さで受け止められる。さらに「できない人はできない」という事実を認めることも、大きな気づきであった。人を変えようとするのではなく、自分の捉え方を変える。成熟とはそういうことなのかもしれない。

5. 本書から得た教訓と今後に活かしたいこと

人間関係において、「怒り」「嫉妬」「自己愛」などの感情は避けがたいものである。しかし、それらを抑える理性や教訓は、文明と共に進化してきた。だからこそ本書のような視点は重要である。他人を責める前に、自分がどう感じ、どう考えているかを問い直すこと。コミュニケーションに悩む人は多いが、それは特別なことではない。問題は気づきと向き合い方である。

6. 結び:読者へのおすすめと本書の位置づけ

本書は、非行少年や極端な例の分析にとどまらない。むしろ、「普通の私たち」の心の歪みを静かに浮かび上がらせてくれる。SNSで他人の行動が目に入りやすい今こそ、必要とされる視点であろう。人とよりよく関わるためのヒントが詰まっており、自他の関係を見つめ直す一冊として薦めたい。

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hirokuluto

Hirokulutoと申します。このブログでは、本の紹介をさせていただきます。 1966年(昭和41年)生まれ。1988年(昭和63年)に大学を卒業し、サラリーマンに。平成を経て、令和4年に早期退職。 読書を通して、自分の頭で考えたい。『人が良く生きるとは?』など。

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